世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
発展途上国を含む全ての主要排出国(196カ国)を対象にパリ協定においてこの目標が合意され、2020年から本格運用が開始されました。そのため、温室効果ガス削減、ゼロカーボン、化石燃料の不使用など、地球環境問題の深刻化は世界的に解決すべき最優先事項として、各国でより真剣に取り組まれ始めました。
日本の掲げる温室効果ガス削減目標数値は「2030年までに2013年度比46%の削減」というもの。
この大きな目標を達成し、さらに2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(「2050年カーボンニュートラル」の実現)ためには、すべての産業、すべての環境で排出量を抑えていくことが不可欠です。日本の企業は、99.7%が中小企業(首相官邸による発表数値より)であり、その割合が先進国の中で圧倒的に高い国。産業界での削減目標達成は、中小企業の努力なくしてはあり得ないと言われています。
中小企業が取り組まなければならない理由
ゼロカーボンは、大企業にのみに課せられた義務、そんな印象を持たれているかたが少なくないと思いますが、近年様相が大きく変わってきています。その大きな要因のひとつが、2022年4月に実施された東証市場再編。
従来、東京証券取引所には「市場第1部」、「市場第2部」、「マザーズ」、「ジャスダック」と4つに区分されていましたが、海外投資家にとって魅力的な市場への進化を遂げるために、2022年4月4日より以下の3つの市場に再分類されました。
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(2022年4月時点)
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プライム市場
(企業数:1,841社)
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スタンダード市場
(企業数:1,477社)
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グロース市場
(企業数:459社)
この中で最も上場基準の厳しい市場がプライム市場。当該市場では、気候変動関連の事業リスクを国際的な枠組みに沿って開示することが要請され(※1)、3月期決算企業は22年6月の株主総会後に提出するコーポレート・ガバナンス報告書から記載が必要になります(開示しない場合には、その理由の説明義務あり)。
これまで報告義務とされていたのは、自社が直接排出した温室効果ガスの量や削減目標だけでした。しかし、これからはサプライチェーン全体における温室効果ガス排出に関するデータの開示が必要となったのです。
その結果、供給元で未上場の部品メーカーや町工場であっても、製造過程で排出した温室効果ガスの量を開示し、削減目標を設定しなければなりません。この潮流に乗ることのできない、または対応に大きく遅れを取った企業は、サプライチェーンから排除されていく可能性があるというわけです。
中小企業が取り組むメリットは何か
環境省では、中小規模事業者に向けたガイドラインを公表していますが、その中で、2050年カーボンニュートラル実現のための中小事業者が真剣に取り組むことの重要性を唱えると同時に、温室効果ガス削減のもたらすメリットについて、以下の5つのポイントを挙げています。
① 優位性の構築(自社の競争力を強化し、売上・受注を拡大)
環境への意識の高い企業を中心に、サプライヤーに対して排出量の削減を求める傾向が強まりつつあり、脱炭素経営の実践は、こういった企業に対する訴求力の向上につながる
② 光熱費・燃料費の低減
脱炭素経営に向けて、エネルギーを多く消費する非効率なプロセスや設備の更新を進めていく必要があり、それに伴う光熱費・燃料費の低減が期待できる
③ 知名度や認知度の向上
省エネに取り組み、大幅な温室効果ガス排出量削減を達成した企業や再エネ導入を先駆的に進めた企業は、メディアへの掲載や国・自治体からの表彰対象となることを通じて、自社の知名度・認知度の向上に成功している
④ 脱炭素の要請に対応することによる、社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化
気候変動という社会課題の解決に対して取り組む姿勢を示すことによって、社員の共感や信頼を獲得し、社員のモチベーションの向上に繋がる
⑤ 新たな機会の創出に向けた資金調達において有利に働く
融資先の選定基準に地球温暖化への取組状況を加味し、脱炭素経営を進める企業への融資条件を優遇する取組も行われている
上記の 5つのメリットを踏まえ、「脱炭素経営」を事業基盤の強化や新たな事業機会の創出、企業の持続可能性強化のためのツールとして認識・活用していくことが重要だといいます。