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コラム : 第79回

オフィスの原状回復を紐解く

賃貸オフィスの解約は、賃貸人に申し入れをして、あとは退去するだけでOK!というわけにはいきません。

ご存じのとおり賃貸オフィスでは、賃貸借契約の開始から解約までの間、構造体に影響を与えるような工事を除いて、居室をある程度自由に造作したり、レイアウトしたりすることができます。

オフィス・デザインは、生産性や従業員のエンゲージメントの向上に貢献したり、採用時の候補者の意思決定の動機付けにもなったりと、昨今非常に重要な要素として捉えられています。

そんな内装デザインと表裏一体なのが、「オフィスの原状回復」。今回は、オフィスの原状回復について掘り下げていきたいと思います。

オフィスの原状回復とは?

「原状回復」とは、いったい何なのでしょうか。

「げんじょう」と聞いて連想する漢字は、たいていの場合「現状」では。「原状回復」で使用される単語は「原状」。まずは、この違いを整理していきましょう。

現状 … いまの姿。
原状 … もとの姿。以前の形。

似た表現ではありますが、その意味はまるで異なります。踏まえて「原状回復」を説明すると、次のようになります。

「原状回復」とは、賃貸物件を借りている人(「賃借人」といいます)が、「退去時に、入居した時点と同じ状態に戻す」ことを指します。

このことは、民法により賃借人の義務と定められています。

2020年4月施行の改正民法の論点

原状回復について論じるときに、2020年4月の改正民法について触れないわけにはいきません。

改正前の民法では、原状回復について定義されていなかった原状回復ですが、2020年4月施行の改正民法で初めて、以下のとおり明文化されました。

【改正民法621条】(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年の変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

本改正前は原状回復の範囲に関する法律上のルールが存在しませんでした。さらに事業用途の賃貸物件では、入居する企業や商業施設ごとに、賃借したフロアの使い方が多様であることから、すべてを借主が負担するのが一般的。そのため、トラブルとなるケースもありました。

本改正民法では、「賃借人の原状回復義務は、経年劣化や通常損耗については発生しないが、賃借人の責任による損傷や劣化については、回復させる義務がある」と定めているのが重要なポイントです。

民法改正で、原状回復の範囲の考え方、費用負担の在り方が明文化されたため、借主側がすべて負担するという特約が認められるハードルがこれまで以上に高くなると考えられます。そのため、賃貸借契約書(覚書、添付資料の類を含む)に明記する範囲や程度に関する内容が以前より重要視されるようになったのです。

入居時の契約で確認された内容によって、その範囲・程度が異なりますので

どの部分を、どの程度まで原状回復する義務があるのか

を確認することは非常に重要です。契約書の確認は必ず行ないましょう。

因みに、改正前の契約は改正前の民法が適用されるので、契約日によって適用される民法が異なる点も覚えておきましょう。

原状回復の範囲とは?

原状回復の範囲は、契約内容によって差異がありますが、代表的なものを以下に例示します。

<賃借人による設置物の撤去>

  • 賃借人が設置した家具、備品類の撤去
  • 賃借人が整備した照明・電気や電話回線の撤去、回復
  • 床下配線の撤去
  • サイン類の撤去
  • パーティションの撤去
  • その他、増設・造作物の撤去

<劣化部分の回復工事>

  • カーペット・床板の張り替え、再塗装
  • 壁紙の張り替え
  • 天井ボードの張り替え・塗装や補修
  • 壁・床・天井・窓などのクリーニング

代表的なものだけを挙げても、ボリュームの大きさが分かります。工事全体の作業量は、造作の量によって大きな差異が生じます。実際のサンプルも併せてご参照ください。

原状回復工事基準(事務所)サンプル(クリックで拡大

原状回復の流れ・ポイントの整理

原状回復を手配するときの標準的なスケジュールや、必要なアクションを順番に整理していきましょう。

① 賃貸借契約書を確認
 退去する意思決定がなされたあと、契約書に記載された解約予告期間を確認(6か月前が一般的)、それに準じた解約日を設定します。その際に、原状回復についても一緒に確認しましょう。ここでは、原状回復の期間や範囲、工事指定業者の有無などを確認します。新旧オフィスの賃料重複期間を必要以上に設けないためにも、解約日と原状回復期間を加味し、いつ移転をすればよいかを把握することが大切です。契約書を確認しておくと、移転先の物件探しのスケジュールなども立てやすいため、実際には移転を検討したらすぐに契約書を確認しておくとよいです。
② 施工業者への問い合わせ
 賃貸人による施工業者の指定があれば、その連絡先を管理会社等に照会、なければ信頼できる施工業者を探すなどし、コンタクトを取ります。このアクションは、できるだけ余裕をもって行なうことが重要。原状回復工事は、現地調査~見積提示の期間が2週間以上かかることも珍しくはありません。その後に控える価格交渉の可能性も見据えて、充分な時間を確保しておきましょう。後々の不本意な出費を避けられます。
③ 施工業者による現地調査
 事前に契約書で確認しておいた原状回復の範囲や程度について、必ず共有しておきましょう。それらを参照しながら、回復するべき項目について現地で寸法や数量の確認を行ないます。
④ 見積り入手・工期確認
 施工業者からの見積りを入手したら、それぞれの項目が契約書に定める原状回復の定義と一致しているかどうかを丁寧に確認します。

・価格は妥当か
・不要な工事や、余剰な工事は入っていないか
・部材は必要以上に高価なものになっていないか

これらの視点から確認し、必要に応じて、施工業者に交渉しましょう。妥当性について、信頼のおける第三者に相談するのも有効な手段です。確認後、工期を把握しましょう。工事が可能な時間帯や曜日など、物件側の制約の有無も予め管理会社に確認しておきます。
⑤ スケジュール調整・工事発注
 見積り内容の協議が終了したら、日程調整に入ります。解約日から逆算して、工期をよく確認しながらある程度余裕をもったスケジュールを組み、工事を発注しましょう。工事の内容と工期の両方で要件を満たさなければ、賃貸借契約の契約違反になりかねませんので、注意が必要です。
⑥ 退去
 入居状態では工事が実施できません。滞りなく引越しができるように、退去日に合わせて移転準備を慎重に進めてください。
⑦ 着工
 いよいよ原状回復工事の実施です。移転による退去であれば、移転先での稼働に若干混乱している頃かもしれません。とはいえ、工事進捗はスケジュール通りか、問題の発生はないか等、工事の状況を把握することも忘れないようにしましょう。
⑧ 引き渡し
 賃貸人と賃借人の間で、原状回復が全うされたことが確認されれば、完了です。

なお、着工までの大まかなスケジュールを表にまとめましたので、ご参照ください。

繰り返しになりますが、賃貸人への解約申し入れから、原状回復手配のカウントダウンが始まります。くれぐれも早めに行動し、無理のないスケジュールで進めていきましょう。

ここで差がつく!

原状回復工事で他に差がつくポイントを3つ挙げてみます。

■「資産除去債務」という会計基準の適用

原状回復工事は、将来発生することが予め分かっている費用として、「資産除去債務」という特別な会計基準が適用されます。

資産除去債務とは、取得した有形固定資産を法令上の義務により将来除去する必要があるとき、将来発生する合理的に見積もり可能な費用として表したもので、貸借対照表上「負債」に表示される勘定科目。

国際会計基準と日本式会計基準の整合性をとるために採用されるようになった方法で、賃貸借契約物件における原状回復義務は、まさにこれに該当する費用。上場企業や関連子会社はもちろんのこと、上場準備中の企業や、上場を視野に入れている場合など、計上が求められます。

なお、会計基準では、「合理的に見積もることはできない場合には、できるようになったときに計上せよ」とありますが、オススメの方法は、入居時に内装工事を実施する際、内装施工業者に依頼して原状回復の見積りを作ってもらうこと。施工業者側にも大きな負担をかけることなく、計上しておくべき費用の目安を掴むことができます。

■「残置物の廃棄」について

退去時には、賃借人所有の備品や家具などは全て撤去し、残置物のない状態にしなければなりません。不要になったものは一般的に廃棄処分に回されますが、案外高額になるケースも…。

そんなときに、リユース・リサイクル業者に相談してみるのも有効な手段です。再生可能な備品・家具や、金属など素材として価値のある部材などを買い取ってもらうことができます。

廃棄を減らすことで自社の経費削減ができるのみならず、再生させることは環境負荷を低減することにも繋がります。ぜひご検討ください。

■「居抜きオフィスとして譲渡」する

原状回復は義務である、という大前提を覆す、まさにウルトラCが「居抜きオフィスとして譲渡」するという選択肢。賃貸人の了承を得たり、新しい借り手が期限内に見つかる必要がある、などの制約はありますが、実現できれば、

・原状回復費用の低減
・重複賃料の低減

などに繋がり、大きなコスト圧縮効果が見込めます。居抜きオフィスについては過去のコラムをご参照ください。

より価値あるオフィスへ「Value Office」

原状回復工事は、造作物を取り壊し、廃棄する工程をともないます。その過程では、おびただしい廃棄物が発生しますが、居抜きの流通は、その廃棄の削減にも繋がる有意義な取り組みとして一層注目を集めています。

まとめ

今回は、原状回復工事について採り上げました。

オフィスの解約時には、予算内且つオンスケジュールで進めなければならないという至上命題がある一方で、なるべく地球環境への貢献を意識していきたいものです。当社では、「タイルカーペット1枚を1円でお買い取りし、リユースに繋げていく」という取り組みに賛同し、協力させていただいております。

原状回復工事には、専門分野の知識が問われる場面も少なくありません。お困りの際は、ご遠慮なく私たちFRSにお問い合わせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(著:FRS広報チーム)