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コラム : 第74回

持続可能な「衣」の話。

コロナ禍は、世界中の混乱と経済損失、悲しみ・不安などと一緒に、「本当に大切なものとは、いったい何なのか」に人々が向き合う時間ときっかけをもたらしました。

そのような背景から生まれた「衣・食・住・働・遊」という表現。生活するうえで必要な基礎である「衣食住」に、生活の基礎を築くために必要な経済活動としての「働」、そして心の平穏や豊かさを育む「遊」が加わったものです。

地球環境の変化、温室効果、生態系の変化が顕著に表れてきた昨今、この5つの要素それぞれのサステナビリティが議論されています。

前回はその中から、「食品ロス」、「自然栽培」や「プラントベースミート」など、持続可能な「食」(サスティナブル・フード)についてレポートしました。

持続可能な「食」について

食品の製造過程と同様、衣料品の製造過程でも環境負荷は発生します。それらについての現状把握と、ひとりひとりの踏み出す第一歩が、地球環境保護のためには肝要。今回のコラムは、そんな持続可能な「衣」(サステナブル・ファッション)について採り上げます。

持続可能な「衣」、サステナブル・ファッション

画像引用:環境省Webサイトより

ファッション産業では、原材料や、生産工程における環境的、倫理的な問題が以前から指摘されていました。地球環境保護への意識の高まりから、世界中でその声は大きくなっており、日本では環境省もこの分野に積極的に働きかけています。

サステナブル・ファッションとは
衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組みのことを言います。(環境省Webサイトより)

まずはファッション産業が抱える問題点を整理し、解決策のひとつとして注目を集めている存在についてご紹介していきます。

ファッション産業が抱える最大の問題とは

現代ファッション産業が抱えている最大の問題は、「過剰生産、過剰消費、過剰廃棄」にあります。

2000年代に入って台頭したファストファッション(=最先端の流行を採り入れながらも低価格な衣料品を販売するブランド業態。短いサイクルで大量生産を繰り返す)の登場は、ファッション産業をガラリと変え、服の超大量生産時代に突入していきました。シーズンごとに服は捨てられることも珍しくなく、大量生産される服のうち40%は廃棄処分されているとも。この過剰生産、過剰消費、過剰廃棄が、いくつかの深刻な問題を引き起こしています。

以下に挙げるのは、その代表例です。

水質汚染問題
——「Tシャツ1着あたりの製造に消費される水の量は、約2,700ℓ」というデータも。洗浄、染色などの工程では、大量の水が使用され、汚染されていきます。また、使用された有害物質が河川に放出される点も、深刻な環境負荷を生むとして懸念されています。

化石燃料問題
——大規模な紡績機械の稼働には、石炭などの化石燃料が膨大に使用されるのが一般的。また、多くの衣料に使われるアクリル、ナイロン、ポリエステルなどの原料は、化石燃料由来。日本市場に流通するそれらの衣料品のほとんどは、海外製。輸送にかかる燃料もまた、膨大です。

マイクロファイバー問題
——ポリエステルやナイロンなどを含んだ服が洗濯され、抜け落ちた繊維は、河川を経て海へ。自然分解されず海中を漂ったマイクロファイバーは、やがて海洋生物の胃の中へ。生態系への影響が懸念されています。当然、漁で陸揚げされた海洋生物が、人の胃に入ることも決して珍しいことではありません。

これらは多くの問題の一部に過ぎず、他にもたくさんの解消するべき問題が挙げられています。

私たちにできる最初の一歩は、過剰生産、過剰消費、過剰廃棄の引き起こす問題を直視し、問題意識を持つことです。身近なところでは、

  • 丁寧につくられた服を、長く着る
  • 古着を選ぶ

などは個人単位でできる重要な環境貢献になります。

環境省制作のYouTube動画でも、直感的に理解しやすい作品に仕上がっていますので、ご参照ください。1分32秒と短い尺なので、ぜひご覧ください。

サステナブルファッション(環境省/YouTube)

そんなファッション産業において、「皮革製品市場に革命を起こすかもしれない」と注目を集めている新素材が登場しました。

菌糸由来のヴィーガン・レザー

皮革製品市場は、全世界で約43兆円市場と言われる巨大市場。旧来より、

  • 動物性皮革の利用への倫理的懸念
  • 飼育・製造工程での温室効果ガス排出
  • 染料による水質・土壌汚染

などに対する懸念が指摘され、多くの反対の声がありました。その大きな問題を解消することは、サステナブル・ファッションにとって長年の夢でもありました。

古くから、皮革製品の代替品として利用されてきたのは、「ポリウレタン」や「ポリ塩化ビニール」といった化石燃料由来の原材料。倫理的懸念は解消されるものの、環境負荷への懸念は残ったままでした。それらの解決策のひとつとして世界中から注目を集めるのが「菌糸由来のヴィーガン・レザー」。なんと、「キノコ」なのです。

菌糸由来の最新のプロダクトは、動物性の天然皮革に触れているのと変わらない水準のしなやかさ、柔軟性のある手触りを備えているとか。既に衣服やハンドバッグ、腕時計のベルトの製造が始まっています。

「エルメス(HERMES)」はパリで行った2021-22年秋冬向けの展示会で、米国のスタートアップ企業のマイコワークス(MYCOWORKS)と開発した、きのこを原料にした人工レザー「シルヴァニア」を用いたバッグ“ヴィクトリア”を発表した。(中略)菌糸体からレザーのような素材を作る技術“ファインマイセリウム(Fine Mycelium)”を開発して特許を取得しており、女優のナタリー・ポートマン(Natalie Portman)や歌手のジョン・レジェンド(John Legend)らも出資している。(引用:WWDジャパン Webサイトより)

菌糸由来のヴィーガン・レザーの特徴は、

  • 非常に丈夫
  • 製造過程での温室効果ガスの排出を抑制
  • 水など天然資源の利用も大幅に削減
  • 廃棄時に堆肥化が可能
  • 1週間~2週間のサイクルで生産可能

このように、従来とは比較にならない水準で環境に優しく、そして何度でも再生可能な生産プロセスである点で、現時点においては究極のサステナブル・ファッション原材料と言えそうです。

まとめ

今回は、持続可能な「衣」についてご紹介しました。「食」のコラムでもお伝えしましたが、

地球に住んでいる生き物の一員として、まずは現実を直視して把握し、自分自身で出来る第一歩を踏み出す。そんな意識や行動が連鎖し、大きな輪になったときに、地球環境が回復に向かっていくのではないか

私たちはそう考えています。真の豊かさとは、それが実現したときに感じられるものなのかもしれません。

今回のコラムが、皆様にほんの少しでも気付きを得ていただくきっかけになったら嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

(著:FRS広報チーム)

参考資料

・SUSTAINABLE FASHION(環境省)

・「エルメス」が“キノコ由来の人工レザー”を米国の新興企業と開発(WWDジャパン)