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コラム : 第69回

BCPは、魔法の杖でも銀の弾でもない。

今回のコラムでは、BCP対策について採り上げます。

未曾有のパンデミックを引き起こしたコロナ禍は、BCPにどう影響したのでしょうか。今回は、危機管理ジャーナリストとしてメディア露出多数の中澤幸介先生にお話をお聞きすることができました。

ぜひ最後までお付き合いください。

BCPは、魔法の杖でも銀の弾でもない

話し手:危機管理ジャーナリスト・リスク対策.com
    編集長 中澤幸介様
聞き手:FRS広報チーム

——はじめに、コロナ禍以降、再注目されている「オールハザード型BCP」について、どのようにお考えでしょうか

2009年のインフルエンザ(H1N1)のときに議論された考え方です。コロナ禍で、流行りのように、にわかに注目を集めましたね。個人的には少し懐疑的に捉えています。BCPには、原因事象(シナリオベース)と結果事象(リソースベース)の2つの考え方がありますが、オールハザード型BCPは結果事象に基づいて考えます。

  • ・原因事象:
    その事態をもたらすきっかけ
    (地震、テロなどの脅威)
  • ・結果事象:
    その結果もたらされる損失・被害の可能性
    (電気が使えなくなる、建物が使えなくなる、経営資源が使えなくなる)

確かにリソースベースは考え方としてはあらゆる脅威に対して事業の継続が可能になる有効な方法だと思います。しかし、私がBCPにおいて重要だと考えているのは、何よりまず社員の安全を含め、被害を受けないようにするということを蔑ろにしてはいけないということ。そのためには、

個別のリスクをひとつひとつ洗い出し、評価、被災しないように、または少なくする方法を検討し、改善し続けていく

ことです。BCPは、魔法の杖でも銀の弾でもありません。災害が起きた時に、被害を最小限度に食い止めることも目標にするべきです。リスクを考慮せず、結果に基づいて対応方法を検討していくのは作業としては非常に楽ですが、本質的ではないと思います。

2011年の東日本大震災をきっかけに、多くの企業がBCPの必要性を感じて10年経ちましたが、BCPの策定が、どの程度役立っているのかを図るのは非常に困難です。コロナ禍は「想定外の出来事」だと言われますが、明けて別の災害に遭ったときには、また「想定外」だということになるでしょう。結果事象から考えるBCP対策は、進化をもたらしません。BCPは、継続的に見直しすることこそが、いちばん重要だと考えています。

——日本は地震大国でもあり多くの災害リスクがありますが、BCP対策では欧米に遅れをとっている印象があります

欧米に比べて日本が遅れているとは思っていません。むしろ、世界のBCPの策定率においては、いちばんと言えるほど浸透しているのではないでしょうか。地震に対する備えなど、個々人の防災意識は先進国の中でも非常に高いと思います。ただ、予め想定した災害が、そのとおりに訪れるとは限りません。起きた災害にどう対応するのか、対応力が肝です。備えていなかった災害に対する対応力という部分では、企業に限らず日本の国民性・文化として不安な部分はありますね。

BCP対策の各論に迫る

ここからは、コロナ禍以降のBCP策定について、それぞれインタビューしていきます。

災害時の安否確認

——コロナ禍を契機に働く場所が多様化しました。安否確認が難しくなったのではないでしょうか

安否確認は、ボタンひとつで出来る時代になりました。当社「リスク対策.com」のアンケートでも「24時間以内で安否確認可能」という回答が大多数を占めます。表面的には、容易に可能な印象を受けます。

しかし、各地で起こった災害時に現地で確認した情報では、全員の安否が確認できるまで2、3日かかっている。これが現実です。90%程度まではすぐに到達するのですが、残りの10%が問題なのです。

『できる』と思っていることが大きな問題

だと感じています。カンタンに安否確認ができるのは、システムが機能する場合に限ります。「常に通信できる、システムが機能する」という前提に立って考えてはいけません。

情報セキュリティ

——働く場所が多様化し、リモートワークが市民権を得ました。デジタル関連で注意すべきことを教えてください

情報セキュリティの在り方を再考するのも必要だと思いますが、ITが使えなくなるリスクを考慮しなければならないと思います。企業規模や業種にもよるかもしれませんが、停電の発生こそが最大のリスクだと思います。非常用発電のみの備えでは足りないと感じています。衛星携帯電話やMCA無線(※1 )などは必要に応じて検討する必要があると思います。

太陽光発電によって蓄電する方法もありますが、蓄電の技術は十分とはいえず、もし蓄電で賄うなら、どのくらいの量を貯めておくべきなのか、実際にどれだけの出力が、どのくらいの時間期待できるのかも、BCPで検討し、実験すべき内容だと思います。

  • ※1 MCA無線…
    周波数の効率的な利用を目的として開発された一般業務用の陸上移動無線システムで、ひとつの周波数帯を多くの利用者が順番に使用する方式を採用している

備蓄品

——備蓄品への影響はみられますか

東京では、「従業員の3日分の必要な水や食料、その他必要物資などの備蓄に努めること』と定められています。備蓄品の中身はさほど変わっていませんが、マスク・消毒液などの感染症対策グッズがプラスされるケースは増えています。加えて、コロナ禍では特に提唱されていることですが、避難所などでも定期的な換気が必要。そのため、夏季においては

防虫剤の用意

も重要だと思います。虫刺されは、熱・感染症の原因になりますし、不眠の健康に与える影響も大きいので注意しなければなりません。アメリカのアリゾナ州・テキサス州など、ずいぶん前から、防虫剤は備蓄品として準備するのが一般的です。

リモートワークが増えた影響でオフィスワーカーが減った結果としての備蓄品減は、当社の調査では現在のところ見られません。今後、日本の働き方が在宅ワークに一気に舵を切るようなことがあれば、自宅での備蓄を考えなければならないでしょうね。

防災関連グッズの最新事情

——防災関連グッズについても教えてください

感染症対策製品がやはり目立ちますね。御社でも販売しているデルフィーノもそうですが、面白いプロダクトがたくさん出てきているなと実感しています。

逆に、足りていないと感じているのが非常用発電です。太陽光や、備蓄機を導入したりしていますが、使える量が限られている。そういった意味では、電気自動車系は画期的に防災の在り方を変えたと思っている。車から住宅に電気を供給するという考え方は従来なかったので、今後に期待しています。やはり、平時使いもできて、緊急時も使えるのがベストだと思いますね。このような考え方を「フェーズフリー」と言いますが、もっと浸透していくべきだと思っています。

例えば、アスクル社で販売している製品に、メモリの付いた紙コップがあります。メモリは平時はデザインとして、有事には計量カップになり、授乳時のミルクの量を調節したりもできます。こういうアイデアは非常に良いと思います。

画像引用:アスクル社プレスリリースより

他には、脱出ハンマー付きのシガーソケットや、特殊なフィルムで匂いの透過を防げる防災用トイレなど、良いプロダクトだと思います。もっと防災グッズの市場にプレイヤーが増えてほしいですね。

感染症対策

画像引用:感染症対策製品「delfino」噴霧イメージ

——コロナ禍で最も大きく変化した分野のひとつが、感染症対策だと思います

2009年に世界的に流行したインフルエンザ(H1N1)が、感染症対策を大きく変化させました。以降、オフィスのエントランスに消毒液が常設されるのが一般的になりましたが、コロナ禍で、もうひとつITの要素が加わり、検温機などが設置されるようになりました。感染症対策が、より世の中に受け入れられた印象です。BCPに比べてレベルが大きく向上しましたね。

消毒液の設置場所も、導線がよく考慮されています。以前から感じていることですが、エントランスの消毒液の設置場所は、その会社の感染症対策意識の高さをよく表していると思います。導線を考慮せずに、受付台の端になんとなく設置してあるような会社に訪問すると、「消毒液をエントランスに置いておけばよい」という程度の意識なのかなと感じてしまいます。

——そのとおりですね。感染症への意識の低さが来訪者に露呈することは、ビジネスにも影響を与えかねません。他に注意すべきポイントがあれば教えてください

トイレはまだまだ改善の余地があるような気がしています。賃貸ビルでは共用部にあることが多いのも要因のひとつだと思いますが、いちばん大きなリスクであるにも関わらず、管理会社に委託された業者任せで企業サイドでは何も出来ていないのが現状です。適切なドアノブの除菌や、トイレの出入り口にマットを敷いて除菌するなど、対策が必要だと思います。感染者が出た際の隔離室をどうするかなども盲点のひとつです。

今後、グリーンゾーン、レッドゾーンのイメージが定着したオフィス設計が出てくるかもしれませんね。形だけでなく、因果関係をより論理的に考えて対策していくべきだと思います。

中小企業のBCP入門

——中小企業におけるBCP対策では、何が重要でしょうか

まず何よりも、社長です。

社長が「やる!」と覚悟を決めること

これが第一です。そのうえで、しっかりと進めていける優秀な人材を確保し、事務局長にアサインすることです。兼任でもかまいません。全従業員に認められる、社長としっかりコミュニケーションが取れる人物が理想です。その人物を中心に推進メンバーを組織するのが良いと思います。細かいことをひとつひとつ決めていくことより、とにかくエース級を充てることが大切です。

BCP対策は、従業員の生命に関わる重大な任務であり、有事の際に会社をどう存続させるかを考えなければならない役割です。その重大任務にエースを充てない理由がありません。有事でも事業をスタックさせない準備には、エースの存在が不可欠です。

彼らに任せつつ、社長は旗振り役として進捗を注視していく、そういう役割が丁度良いのではないでしょうか。

不動産分野の防災対策

——不動産関連のリスク管理について教えてください

ハザードマップを参照することは全従業員が行なうべきだと思っています。ただ、昨今ハザードマップに載っていないことが起きています。中小河川や用水路などは網羅されていませんが、氾濫のリスクはあります。

  • 歴史的視点(過去に起きた災害の把握)
  • 物理面(地震、洪水、転倒などによる物の脆弱性)
  • 環境面(朝と夜など時間による環境変化、長期間での周辺環境の変化など)
  • 最近の情勢(天災の増加、近隣での感染者の発生など)
  • 地理面(土地の成り行き、地質、山や自然の存在)

この5つの視点から整理する必要があると思います。

——オフィスビルについてはいかがですか

共用部の対策が整備されていないと感じています。先程のトイレの対策もそうですが、エレベーターも盲点です。阪神淡路大震災では、数百人がエレベーター内に閉じ込められました。閉じ込め対策として備蓄品を置いておく必要があると思いますが、実施できているオフィスビルは、ごく一部です。首都直下型地震が起きたら、確実に阪神と同じことが起きてしまいます。

監視カメラ、入退管理などもそうですが、過去に起きた大きな災害や事件の教訓を活かして、改善していくべきではないかと思います。このあたりは、不動産会社・ディベロッパーの皆さんからの働きかけに期待したいですね。

——そのとおりですね。私たち不動産会社からも働きかけていく必要がありそうです。本日は貴重な学びの機会をありがとうございました。

まとめ

今回は、BCP対策についてリスク対策.comの中澤編集長にお話をお聞きしました。

BCP対策のポイントは、

  • 社長が決断する
  • エース級の人材にリーダーを任せチームを編成する
  • 潜在リスクを洗い出し、評価する
  • アップデートし続ける
  • システムに依拠し過ぎない
  • 日頃からの防災意識・調査

等々、参考にしていただければと思います。リーダーシップをもって全体の合意を得ながら巻き込んでいくべき点など、FRSの基幹事業であるオフィス移転プロジェクトや、DX推進とも非常に近いと感じました。

最後に、今回インタビューさせていただいたリスク対策.com様の記事を購読することは、ミスのないBCP策定の近道です。「知識のワクチン」として、Webサイトをご参照のうえ、会員登録(無料)してみてはいかがでしょうか。

(著:FRS広報チーム)