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コラム : 第64回

ゼロからはじめる「DX」(入門編)

今回のコラムは「DX」をテーマにお送りします。この単語を聞いて、

  • ウチの会社には関係なさそう
  • なんとなく焦りを感じる
  • 何から手を着けていいのかよく分からない

これらに類する感想を持たれるかたは、少なくないのではないでしょうか。

教科書的な定義では、このようになります。

DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transfomation)の略語で、

「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」

という概念で、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授が提唱。
(「デジタルシフト」も同義)
ビジネス用語として定義・解釈が分かれるところですが、

「企業がテクノロジー(IT)を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」

という表現が汎用的に用いられる。

抽象的で、実態がまるで見えてきません。しかし、めげずに正しく理解し実践することで、業績・事業成長に大きく貢献してくれるもののようです。

今回は、そんな「DX」について、皆さんと一緒に整理していきたいと思います。

「2025年の崖」DXレポートを読み解く

2018年9月7日、経済産業省は、2018年5月に発足した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」で議論した内容を、企業のデジタル変革に関する報告書にまとめました。報告書では、日本国内企業が抱える情報システムの課題を指摘しています。その中で注目されたのが、「2025年の崖」という表現。

実は、この表現、前半だけを切り取って危機感を訴えるためにあらゆるメディアが多用したもの。この報告書に書かれていることを要約すると、

複雑化・ブラックボックス化した既存システム(※「レガシーシステム」と表現されています)を刷新しない場合、2025年~2030年の間で最大12兆円の経済的損失が発生し得る(報告書が提出された時点の約3倍の経済損失額)。レガシーシステム刷新なくしては、高度なデータ活用などDXが進展しづらい。逆に、25年までに既存システムの刷新を進め、DXを推進できれば、30年には実質GDP(国内総生産)を130兆円押し上げる効果がある。

DXレポート(経済産業省)より抜粋①

と言っています。実際の報告書は、現状の課題を挙げて警鐘を鳴らすとともに、DXの推進で実現されるポジティブな効果についても言及しているのです。焦りを感じるその前に、まずは報告書の内容を精査していきましょう。

なぜ、2025年なのか?

報告書内の「崖」という強い言葉。「ギリギリの状態」、「もう後がない状態」の比喩として用いられることが多い表現です。2025年には、いったい何があるのでしょうか。その論拠とされている要素は以下のとおり。

SAP ERPのサポート終了(とされた年)
SAP ERPは、ドイツSAP社製の世界標準の統合基幹システム。販売、生産、在庫管理、会計などがリアルタイムでデータ連携、採用している日本企業は大手企業を中心に2,000社ともいわれ、その保守終了は衝撃をもって報道され、「SAPの2025年問題」と呼ばれた(※その後、サポート期間は2027年まで延長すると発表)。
構築以降21年以上経過した基幹系システムが6割に達する
SAP ERPをはじめとした大規模な基幹システムを導入している企業のうち6割が、構築以降21年以上経過する。
ITエンジニア不足が約43万人に達する
慢性的に不足したITエンジニアが2025年にはピークに。その中でも、レガシーシステムの維持に大きく貢献していた「COBOL」というプログラミング言語などの古い言語を使えるエンジニアは、2007年以降既に定年退職者が続出。属人的なノウハウは消滅しつつあり、システムのブラックボックス化が深刻化している。また、先端IT技術に明るいエンジニアも同時に供給不足が著しく、レガシーシステムの復旧も刷新もできない、という事態に発展しかねない。

これらの問題が、臨界点を迎える可能性が高いのが2025年で、打ち手がないままでは事業存続の観点から大いに危険だという分析結果のようです。

日本企業のITエンジニアの雇用状況

次に、日本企業のITエンジニアの雇用状況をみていきます。以下のグラフは、ITエンジニアの所在がユーザー企業とIT企業のどちらにあるのかを示しています。結果をみれば一目瞭然。

DXレポート(経済産業省)より抜粋②

ITエンジニアは、米国では3人に2人がユーザー企業に属しているのに対して、日本では3人に1人以下の割合。圧倒的に人数が少ないことが分かります。この状況がもたらす結果が以下の図。根本的な思想の差異が横たわっています。

DXレポート(経済産業省)より抜粋③

技術的負債の存在

社内のITエンジニアの数が少ない日本企業では、システム開発をIT企業にまるごと委託するのが珍しくありません。中には要件定義まで外部が行なうことも…。そんな状態では、ノウハウが社内に蓄積されるわけがありません。また、

各事業の個別最適化を優先したシステム構築の結果、システムの構造がより複雑化、企業全体での情報管理・データ管理が困難になっている

このことも根深い問題。そんなレガシーシステムは、定期的な見直しをしたり、大規模なメンテナンスを実施したりするのは稀。必然的に、システム内部の構造を誰も理解していないことになります。まさに薄氷を履むが如し。

DXの推進には、新しいデジタル技術の活用など「攻めのIT投資」に重点を置かなければなりませんが、実態はその逆。JUAS(日本情報システムユーザー協会)の報告書によると、日本企業のIT関連予算の80%は現行ビジネスの維持や運営などの「守りのIT投資」に割り当てられています。以下のグラフは、日米のIT投資を比較したもので、ここでも大きな差異が見て取れます。

DXレポート(経済産業省)より抜粋④

個別最適化や、近視眼的に構築されたレガシーシステムは、その保守・運用コストが高騰。この費用は「技術的負債」と呼ばれ、DXの大きな妨げになっています。現行ビジネスのためのITシステムの保守・運用に8割のリソースを投入、且つ技術的負債を抱えていたら、システムを刷新して付加価値を追求する攻めの投資は実現などできません。レガシーシステムの稼働に必要な知識を持つITエンジニアは定年退職などでリタイアし始めて久しく、さらに社内にノウハウはありません。増大し続ける技術的負債に歯止めをかけることは、できるのでしょうか。

また、保守・運用を担うIT企業にとっても、この技術的負債の問題は大きくのしかかります。限られたリソースを技術的負債のために割かざるを得ないため、最先端のデジタル技術を担うエンジニアを確保できなくなる恐れが。加えて、レガシーシステムのサポートという人月型の受託業務から脱却できないことも、事業継続上のリスクといわれます。

デジタルシフトの第一歩は?

とはいえ、技術的負債を乗り越えDXにシフトするのは、企業の必須命題。では、そのための初動は何をすべきなのでしょか。以下に、初動に欠くことのできないアクションを整理しました。

経営戦略の策定、経営者の覚悟
経営戦略の中にDXを明確に位置付け、経営者自らが先頭に立ち、強い意志を持って牽引する。米国では、ITシステムやサイバーセキュリティについて、経営者自身が説明することは珍しくないそう。
複雑化・ブラックボックス化の解消① 既存の情報資産の把握・取捨選択
これからの自社の事業推進において必要なデータを洗い出し、現状の情報資産と比較、不要なものは大胆に廃棄する。
複雑化・ブラックボックス化の解消② ITシステムの全体像の把握
レガシーシステムが、どのような機能を持っているのか全体像を把握する。刷新するシステムは極力コンパクトなものを心掛け、不要な機能をそぎ落とすことも検討する。
DXの実行① 開発方針の低リスク化
刷新するシステムは、アジャイル型(機能単位の小さなサイクルで設計・開発・テストを繰り返すため、スピーディで且つ、開発中の要件変更がしやすい)開発を採用するのが低リスク。
DXの実行② IT企業の選定
付き合いのある企業を重用したり、知名度や企業規模を判断材料にはせず、自社にとってもっとも有益な提案を最大の選定基準とする。また、要件定義は丸投げせず、自社にノウハウやドキュメントが残るようにする。

DXのもたらす恩恵

日本は、誰もが知っての通り、超高齢化社会を迎えつつあります。先進国では飛び抜けた存在で、働き手は圧倒的に減っていきます。それらは、

  • システムでフォローする
  • 移民の受け入れ労働人口を補う

など、いくつかの選択肢の中から必ず打ち手を講じなければなりません。やはり、ITテクノロジーでフォローできる部分は実行するのが吉というもの(移民の問題は管轄外なので、他社に譲ります)。

「2025年の崖」問題は、主に旧来の大規模なレガシーシステムの刷新の必要性に焦点が当てられ、警鐘を鳴らすものでした。大企業のデジタルシフトは、莫大な経営リソースを投下する必要がありそうです。 そういった意味では、レガシーシステムへの依存度がそこまで高くはない中小企業のほうがDXに舵を切りやすいのかもしれません。

本稿冒頭でご紹介したDXの定義は、「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」とありましたが、もう少し実際の手順を追って表現すると、

旧来のアナログな業務を電子化、データとして蓄積していく。そのデータをAIやビッグデータの活用などの最新のIT技術によって分析する。その結果を可視化することで、業務の合理化・最適化を図ったり、コスト圧縮の実現などの好循環を生み出す

これがDXの真骨頂であり、ダイナミズム。ここからは、中小企業がDXに向けた第一歩を踏み出していくための導入編として、いくつかのツールをご紹介します。

1. 電子契約(印鑑の電子化)

コロナ禍を契機に、導入企業が一気に増えた「電子契約(印鑑の電子化)」。メディアでは、「ハンコ出社」(※在宅ワークを基本とするが、印鑑を自身が押す、または印鑑を決裁者にもらうためだけに出社すること)に対するソリューションとして報じられることが多かった印象ですが、それはメリットにひとつに過ぎません。数ある電子契約ツールの中でも多数派を占める、ベンダーの用意したプラットフォーム上で契約行為が実行できる電子契約ツールを例に考えてみます。それらのプロセスは、概ね以下のとおり。

契約書の作成
契約書を振り出す一方が電子契約書を作成、セキュリティが担保されたプラットフォーム内の所定の場所に格納。契約の相手方に対してその旨を通知します。
契約締結
通知を受け取った契約の相手方が、プラットフォームにログイン、内容を確認し押印等を済ませると、契約完了です。

主な手順はこれだけ。非常にシンプルです。全てがオンライン上で完結するため、従来のように移動や発送手配にかかる時間・費用を削減、紙を出力する必要すらありません。締結済の契約書はプラットフォーム内のサーバに格納されるため、ファイリングの必要はなく、当然保管場所も不要。人的ミスによる紛失はなく、後日契約書の確認が必要になった場合には、あらゆる検索条件で見つけることができます。

DXの恩恵:契約に要する時間・費用の圧縮、省スペース、人的ミスの防止、書類捜索の時間圧縮、など

2. ワークスペース分析ツール

ワークスペース内の混雑状況・満空情報の可視化ツールは、コロナ禍をきっかけに、テレワーク導入企業が増えたことや、フィジカル・ディスタンスの確保を徹底する必要性から、導入企業が増えています。ワークスペースの満空・混雑情報をリアルタイムで、且つスマホなど遠隔からでも表示させることができます。その情報は分析ツールによって、

*執務エリアの稼働状況の可視化
執務エリア全体の稼働率、エリアごとの利用状況、部署別の滞在時間やピークタイムの所在などを可視化。レイアウトの最適化や実態に即した面積の算出が可能。余剰面積をカットしコスト圧縮に貢献するケースも少なくありません。
*会議室の稼働状況の把握、適正な会議室の数・面積を割り出せる
会議室の稼働状況が把握でき、適正な会議室の数・面積を割り出せます。少人数の利用が多い場合には、大会議室を細分化したり、プライベートブースの導入を検討するなど、最適化のための材料に。
*感染症罹患者が出た際には、接触者の追跡が可能
利用者の入退室管理、利用時の位置情報を保有できるため、感染症が発生した場合の追跡にも大きな役立てることができます。

従業員の利用状況を正しく把握することは、スペースの有効利用のみならず、従業員のストレスの軽減、エンゲージメント向上にも大きく貢献してくれそうです。さらに、個人別、チーム別の利用状況の分析結果から、必要なオフィス機能の取捨選択をおこなうことで、パフォーマンス向上へとつなげることもできます。

DXの恩恵:フィジカル・ディスタンスの確保、省スペースによるコスト圧縮、従業員エンゲージメント向上、業務生産性の向上、など

その他のDX関連ソリューション

他にもDX関連のソリューションが各メーカーからリリースされています。

RPAツール(ロボティックプロセスオートメーション)

RPAツール(ロボティックプロセスオートメーション) 従来、人が担っていた定型作業・単純作業をロボットで自動化するRPA。業務最適化・工数削減、スタッフの負荷や残業圧縮などによる生産性向上、人的ミスの防止、品質向上などの恩恵が期待できます。

議事録自動作成ツール

会話中の音声をテキスト化、AIによる自動要約が可能。議事録の共有や同時編集もでき、タスク管理にも応用できるプロダクトも。迅速な情報共有の実現、正確な記録保存、業務の効率化、人的ミスの防止などの恩恵が期待できます。

AIカスタマーサポート

CS業務のなかで、定型化できる質問の受付~回答までをチャットボット(=自動応答プログラム)で完結させるセンターが増加中。AIが学習し続けるためカバー範囲が拡大していくのも大きな魅力。顧客対応業務の標準化、人件費削減などの恩恵が期待できます。

現在リリースされているDXツールは、一見すると贅沢品にみえるものも少なくありませんが、製品の本質を理解し分析を行なっていくことで、大きなコストメリットを生み出す可能性のあるものも。

今後、DXの導入企業が増えマーケットが拡大してくると、サプライヤーも増え競争が働き、価格もこなれてくることが予想されます。

フォーバルグループの取り組み「ワークラボ函館」

ワークラボ函館Webサイト掲載資料より①

ここでは、私たちフォーバルグループのDXに関する取り組みをひとつ紹介させていただきます。当グループ(ネットリソースマネジメント)では、2020年7月、函館市に「ワークラボ函館」を設立しました。このラボは、

「働く空間」から生まれる「データ」で「働き方」を変え、「働く」に関わる人の幸福度を上げること

を目標に掲げています。ラボ内では、人が幸福感を得ながらパフォーマンスを最大化できる環境を実現するため、研究開発が行なわれています。

具体的には、通信、アプリケーションやセンシング技術(=空間の各所に設置されたセンサーで、人の動きや温度・湿度、CO2濃度などを取得)から得られるデジタル情報に加えて、実際に働く人から得られるアナログな情報も収集。それらの情報をビジュアル化し、データ解析していきます。

また、ワークラボ函館では、SDGsを「ジブンゴト」にするための日本社会の持続可能な「地域」目標として、

SLGs(Sustainable Local Goals)

を掲げています。ハコレコドットコム株式会社、函館市との3者協定によって、最先端事業の創出、高度人材の育成と雇用、データ活用による市民生活の向上などを目指しています。

ワークラボ函館Webサイト掲載資料より②

こちらのラボについては、また別の機会に詳しく紹介させていただきたいと思います。ご期待ください。

さいごに

今回は、DXについて整理してきました。当初は、ただただ難解そうに感じるDXも、その恩恵を知ると素晴らしいものに思えてきませんか。

リモートワーク推進など、ワークスタイルの多様化促進にもポジティブな効果が期待できるため、採用等にも良い影響を与えてくれそうです。そういった副次的な恩恵も、DXの大きな魅力かもしれません。

経済産業省の報告書が出されてから2年近くが経っていますが、まだまだ本格的に着手していない企業が圧倒的多数。いまからでも決して遅くはありません。明日とは言わず、今日からその第一歩を踏み出していきましょう。

とはいえ、何から手を付けたら良いのか…?悩ましいですよね。そんなときはまず、FRSにご相談ください。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

(著:FRS広報チーム)

参考資料

・DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)

・ワークラボ函館