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コラム : 第56回

コロナ禍のオフィスの在り方「攻めのダウンサイジング」

2021年1月末、株式会社Photosynth(フォトシンス)(※1)主催の「コロナ禍におけるオフィスの在り方」に関するウェビナーに、当社オフィスコンサルティンググループ 柳田 慎吾が、株式会社SHIFTの丹下 大社長とともに登壇させていただきました。
本コラムでは、ウェビナーで説明させていただいた内容をもとに、新しいオフィスの在り方についてご紹介させていただきます。

  • ※1
    クラウドで入退室情報を管理できる「Akerun 入退室管理システム」を提供する、東京都港区のIT企業。

ビフォーコロナ ~コロナ禍直前のマーケット~

こちらは、過去10年間のオフィス物件の供給量を示したグラフです。

2020年の30万坪超の供給を筆頭に、2010年以降のオフィス物件供給量は10万坪/年を超え、平均15万坪程度/年の供給が続いていました。この大量供給については、「供給過多ではないか」と不安視する見方もありましたが、そんな予想を裏切り、2019年時点で2020年竣工を含むほとんどの区画が成約済という状況でした。

背景には、アベノミクスと呼ばれる経済政策の影響と、雇用環境の変化(定年延長・再雇用制度の拡充、女性の社会参加の続伸等)などが挙げられると思います。

好業績を上げる企業も目立ち、「優秀な人材の確保が急務だ」という共通の課題が叫ばれました。オフィス環境への影響も大きく、

・好立地ビル
・ハイグレード
・築年数の浅い、または新築

こういったオフィスビルへのニーズが高まりました。また、フィンテック、自動運転や電気自動車、EC関連などの企業からの新規事業部署のためのオフィスニーズや、コミュニケーションの活発化・イノベーションの誘発や生産性の向上を目的とした、多拠点オフィスの集約案件もありました。

そういった企業の移転では、通常は「二次空室」と呼ばれる区画(移転元のオフィス区画)が空室になるケースが多いのですが、別フロア賃借中の企業からの「館内増床」も多く、例年のようには二次空室が発生しませんでした。

こちらの表は、2019年12月時点での都内10区(千代田、港、中央、新宿、渋谷、豊島、目黒、品川、文京、台東)の基準階坪数別の空室率をまとめた表です。前述のような背景により、空室率は過去最低水準を維持しています。

特に、200坪を超える基準階を持つ大型オフィスビルの空室は極端に少なく、拡大移転や館内増床したい企業は思うように動けず、近隣の小型物件を賃借することで増員を凌ぐという分室ニーズも見られました。

その状況を裏付けるデータをもうひとつ。

左側は募集開始面積(解約区画、新規募集区画)を表し、右側は募集終了(成約区画)を表しています。東京都心5区(千代田区、港区、中央区、新宿区、渋谷区)の大型オフィスビル(基準階面積100坪超)の募集状況を集計したもの。縦軸が面積、横軸が期間を表しています。ここから、このクラスのオフィスビルでは、平均約1.3万坪(募集終了―募集開始)の供給不足が続いていたことが分かります。

ウィズコロナ ~オフィスを取り巻く環境の変化~

ここからは、ウィズコロナ時代についてです。

2020年1月に国内初の感染者が確認されて以降、感染拡大が続き、東京には2度の緊急事態宣言が発令されました。このことは、まだまだ胎動というレベルに思えた「働き方改革」に、否応なしに拍車をかけていきます。もちろん、オフィスビルマーケットは大きな影響を受けました。

各企業は、できる限り出社や移動、面談等を制限し、Web会議などを活用したリモートワークを取り入れていきました。

移転ニーズの振返り

このグラフは、FRSで運営する「オフィス移転navi」(※2)にお問い合わせをいただいた中から、当初から移転の方針を決定されていたお客様のニーズをまとめたものです。この期間で、お問い合わせの総件数自体には、ほとんど変化が見られませんでした。

青い折れ線は、面積拡大のニーズを表しており、2019年度下期(2020年1月~3月)を機に急激に減少しているのが分かります。一方で、面積縮小を表すオレンジ色の折れ線は、同時期を境に急カーブで増加に転じています(他の主な3つのニーズについては、特段変化は見られませんでした)。

こちらの円グラフは、2019年上期、2020年上期それぞれの移転ニーズを、もう少し掘り下げたものです。

2019年では、青色エリアの面積拡大ニーズが73%、 赤色エリアの面積縮小ニーズが14%、立地変更ニーズが9%、などと続いていきます。移転ニーズの半数以上が増員による拡大移転と、象徴的な結果になっています。逆に、面積縮小ニーズは、業績悪化によるものでした。

2020年では、面積拡大ニーズが45%(-28%)に減少、面積縮小ニーズが42%(+28%)に増加しています。新規開業や契約満了、立地変更に大きな変化は見られません。面積拡大ニーズの内訳(青色エリア)をみていくと、純粋な増員による面積拡大は大きく減少(-45%)し、新たにサテライトオフィスを借りるという面積拡大ニーズ(+19%)がトレンドとして加わりました。BCPの観点からのリスク分散や、働き方の変化にともなうニーズの変化が表れています。

また面積縮小のニーズについても「働き方の変化にともなう面積縮小ニーズ」(+26%)が新たに生まれました。

そのようなニーズの変化を受け、空室率はどのような変化があったのでしょうか。

空室率の推移

上の表(上段)は、2019年12月時点と、2020年12月時点の空室率を比較していますが、どの指標でみても空室率の増加が見て取れます。面積が小型ビル程、反対に空室率が高いことが分かります。

不動産マーケットでは、「空室率5%が、需給が均衡し賃料が反転する目安である」と言われていますが、それを判断するには、もう少し掘り下げていく必要があります。上の表の下段(主要10区 空室状態+潜在空室(※3))の表がその参考になりますので掲載させていただきました。

こちらの表では、ほとんどの指標で空室率が5%前後であることが分かります。100~199坪の物件では、

「空室状態<潜在空室」

となっており、募集賃料ダウンなど条件緩和をお考えのオーナーも増加しています。

  • ※3
    潜在空室とは … 所有者に対して解約の申入れはしたが、賃貸借契約が残存している区画のこと(解約までの猶予期間は通常6カ月間)

こちらは、東京都心5区の基準階100坪以上のオフィスビルの募集開始(解約)と募集終了(成約)をそれぞれグラフ化しものですが、コロナ禍では

「募集開始>募集終了」

が一目瞭然に分かります。平均1.8万坪/月の供給過多な状況へと推移しています。

大型物件では、期間の定めのある契約(定期建物賃貸借契約と言います)が比較的多いと言えます。この契約の場合は、予め定められた期間内での途中解約は難しいケースも多く、契約期間満了を見据えての移転を検討中という潜在的な解約ニーズも少なくないかもしれません。

現状把握の最後に、東京都心5区の規模別の募集区画数です。50坪~100坪と100坪以上の区画は増加傾向が続いていますが、20坪~50坪の区画では、年末年始の時期で減少に転じているのが注目すべきポイントです。

グラフ外ですが直近の数値を参照すると、また上昇に転じていますのでスポット的事象ではありますが、これはサテライトオフィス需要、分室ニーズが集中したことも一因と考えています。

ポストコロナ ~オフィストレンド予測~

最後に、今後のオフィストレンド予測をしてみたいと思います。将来予測としてトレンドは以下の4つが挙げられると思います。

トレンド① 縮小×分散化
トレンド② フレキシブル×コワーキング型オフィス
トレンド③ 働くエリアの多様化
トレンド④ 貸し方の多様化

それぞれ、順番に見ていきたいと思います。

トレンド① 縮小×分散化

縮小×分散化の動きは、富士通、東芝、日立、ブリヂストンなど、グローバルカンパニーから始まったトレンドのひとつです。テレワークやフレックスタイム制の導入、オフィスのフリーアドレス化を推進することで、ひとつの大型オフィスに大勢の社員が同時に集まらないようにという狙いがあります。

オフィス全体の床面積を削減しつつ、

・主要拠点となるオフィス
・サテライトオフィス
・通勤経路の集中するエリアに置くサードオフィス

など、各オフィスの役割を明確化・分散化することで、リスク対策を講じながらも生産性の向上が期待できます。

トレンド② フレキシブル×コワーキング型オフィス

分散化のニーズを吸収できる受け皿のひとつとして、大手デベロッパーなども運営するシェアオフィス、レンタルオフィスやコワーキングオフィスの存在があり得ます。働き方改革の浸透を受けて、それらのオフィスにも多様化が見られます。

シェアオフィス等は、初期費用の安さやオフィス環境が整った状態で業務スタートできる点、契約周りのスムーズさ等から当初より一定のニーズがあったものの、その代わりに月額賃料が通常の賃貸オフィスに比べて高額であることが一般的でした。

しかし、最近は新たに出社比率に応じたプランが用意されているケースも。このプランでは、平均的な日常の出社人数で固定席を契約、席数が不足した日には固定席以外のスペースや他拠点を活用できる、という高フレキシビリティな設計になっています。

トレンド③ 働くエリアの多様化

フレックスタイム、オフィスの分散化や在宅ワークの浸透によって、「もはや東京都心部にオフィスが存在する必要はないのではないか」という声も。このことは2015年頃から一部で話題になってはいたものの、コロナ禍を境に踏み切った企業が増加した印象です。

地方へ本社を移転させた事例では、パソナ社の丸の内から淡路島への移転が記憶に新しいところ。雑誌のインタビューで創業者の南部靖之氏は以下のように語っています。

「コロナは、真の豊かさとは何かを働く者に目覚めさせた、大きなきっかけになった」

移転の結果、オフィスの賃料は1/10になったとか。淡路島の自然は、確かに癒しの効果が期待できそうです。

他にも、東京都から近郊へ本社機能を流出させている事例も少なくありません。

都道府県を跨いだ本社移転件数のデータ(2020年11月集計)では、総数は1,165件でした。最も多かったのは東京都から神奈川県への転入数で119件。本社機能の移転でなくとも地方圏に拠点を構えるメリットとしては、

・東京都心部に比べ賃料コストが安価
・交通量減による通勤負担の軽減
・ワークライフバランスの確立
・一極集中で起こる災害の回避(BCP)

などが挙げられます。

トレンド④ 貸し方の多様化

貸し方の多様化は、中小規模のオフィス物件で目立ち始めています。

面白い形態のひとつに、オフィスを曜日で借りるサービスも。これは、オフィス区画を曜日ごとに複数社でシェアする施設利用契約の形態です。各契約企業は、働き方に応じて使いたい曜日のみオフィスを契約します。まだ新しいサービスですが、反響は上々だといいます。

また、特筆すべきトレンドとしては、居抜き物件やセットアップ物件は外せません。これらに対するオーナー側の柔軟性は、以前に比べて格段に高まった印象です。中には、什器・備品類など残存した状態での募集も。

一般的に言われている居抜きのメリットは、

・入居するテナントの内装工事費用の圧縮
・入居までの期間圧縮(内装工事がほぼ発生しないため)による二重賃料の圧縮
・退去するテナント側の原状回復費用の圧縮

などが挙げられますが、昨今の流通量の増加は、それだけでは説明が付きそうにありません。このあと触れていきたいと思います。

まとめ

「ハンコレス化」や「ペーパーレス化」や人事評価制度の見直しなど、新しい働き方の定着のための横断的な仕掛けを中期経営計画に盛り込み推進している企業も聞かれます。今後のオフィスの在り方は、まるで予想が付かないくらいの変化を遂げる可能性もあり、目が離せません。

最後に、セミナーでは伝えきれなかった「居抜きのトレンド」について、少し掘り下げて締めさせていただきます。

なぜ、いま居抜きの流通量が高まっているのか

現在、居抜き物件に注目が集まっています。当社の運営する居抜き・セットアップオフィス専門サイト「Value Office(バリューオフィス)」へのオーナー側からの掲載依頼のお問い合わせ数も増しています。

居抜き物件は、移転に掛かるコスト圧縮に直結しますので、現在の不透明な経済状況下で注目を集めるのは想像に難くありません。しかし、コスト圧縮だけがその理由なのであれば、過去の不況下においてトレンドになっていても良かったはず…。ではなぜ、いま流通量が増え、注目を集めているのでしょうか。

当社の見立てでは、

働き方の多様化が浸透し始めた結果

が理由のひとつだと捉えています。働き方改革が叫ばれるようになって数年経ちましたが、急成長のベンチャー企業や、優秀な人材の獲得を実現している企業群においては、「機能性」と「魅力的なビジュアル」を両立したオフィスに積極的に投資する傾向が高まっています。

従来のオフィスは、社員数に一定の係数を乗じた面積を確保し、必要な会議室を設けるという考え方が一般的でしたが、少しずつ変化し始めました。その結果、

・コミュニケーション活性化の仕掛けがある
・集中できる環境がある
・リラックスできる
・イノベーションを誘発するデザインが施されている

こんな要素を体現したオフィスが増え始めています。そして、マーケットにそういったオフィスの絶対数が増えたのだと思います。「居抜き物件=コスト圧縮の手段」という考え方は、どうやら少し古くなりつつあるのかもしれません。

攻めのサイズダウン

がトレンドのひとつとしてありそうです。

当社の専門サイト「Value Office(バリューオフィス)」には、それらに相応しいオフィスがラインナップされていますので、次回特集していきたいと思います。ご期待ください!

(著:FRS広報チーム)